【バンコク=藤谷健】ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん(64)が、米国人を無断で自宅に滞在させたとして国家防御法違反の罪に問われた裁判の判決公判が11日、最大都市ヤンゴン郊外の特別法廷であり、労働を伴う3年の実刑判決が言い渡された。だが、直後に入廷した軍事政権の内相が判決を1年6カ月に減刑し、自宅軟禁にするとの政権の決定を伝えた。
スー・チーさんは約3カ月ぶりに自宅に戻され、これまで通算で14年近くに及ぶ拘束・軟禁状態がさらに続くことになった。軍政側には1年半の軟禁で、来年予定される総選挙からスー・チーさんを排除する意図があるのは明らかで、国際社会からは「悲しみと怒りを感じる」(ブラウン英首相)などと批判が相次いでいる。
決定は、軍政トップのタン・シュエ国家平和発展評議会議長の名前で伝えられた。軍政側には、同罪では法定で最も軽い3年の刑とし、スー・チーさんを収監せず自宅軟禁にする「配慮」を見せることで国際社会の非難を和らげる狙いがあるとみられるが、活動の自由が奪われることに変わりはない。
裁判で検察側は、スー・チーさんが自宅軟禁中の5月初め、湖を泳いで侵入してきた米国人男性を滞在させ、食事を与えたことが外部との接触を禁じた国家防御法の規定に抵触すると主張。弁護側は侵入を許した警察に責任があるとして無罪を主張していた。
弁護側は控訴も検討するとしているが、軍政下で判決が覆る可能性は極めて低い。またこの日、米国人男性に懲役刑を含む7年の実刑が言い渡されたほか、スー・チーさんの自宅で働く家事手伝いの女性2人も1年半の自宅軟禁に置かれることが決まった。
軍政が掲げる「民政移管プロセス」では来年に総選挙を実施し、新政府を発足させて民政移管するとしている。しかし、多くの民主化運動家が「政治犯」として投獄されており、公正な選挙を求める国連や民主化勢力などは、総選挙前にスー・チーさんを含む全政治犯を解放するよう軍政に強く求めていた。
スー・チーさんを再び自宅軟禁としたことで、「民政移管プロセス」の正当性に一層大きな疑問符がつくことになった。